ティーボール・ティーチャー(指導教本)
NPO法人日本ティーボール協会
「オフィシャル指導教本」
(体育教育出版会刊)
丸山 克俊・吉村 正編著
刊行のことば
ティーボールは、野球とソフトボールの「スターターゲーム」です。ティーボールは一言でいうと、ピッチヤーのいない野球です。ソフトボールです。
ティーボールは、1988年、国際野球連盟(IBA)と国際ソフトボール連盟(ISF)が協力して、リトルリーグやソフトボールの入門期の子どもたち(4歳から8歳)のために考案されました。 わが国においては、1981年5月に創設された大学スローピッチ・ソフトボール研究会(会長: 吉村正)が中心となり、1993年秋に「日本式ティーボール」を完成させ、同年11月22日、「日本ティーボール協会」(会長海部俊樹、筆頭副会長吉村正)を発足させました。この日本式ティーボールは、 幼児や児童に野球やソフトボールの楽しさを味わってもらおうというだけでなく、すべての女性、 親子二・三代に渡って野球やソフトボールをいつまでもプレーし続けてもらおうという考えのも と創作されたものです。
日本式ティーボールは、創設された3ヶ月後の1994年2月に「ティーボール入門」、4月に「ルールブック」、そして翌年1995年9月に4ヶ国語のティーボール・ルールブック(日本語、英語、中国語、韓国語)をそれぞれ発刊しました。わが国での普及活動は言うまでもなく、アジアから世界へ広く普及させるための活動を開始したのです。
現在、日本ティーボール協会の活動は、大別すると3つあります。1つは、野球とソフトボー ルの底辺拡大です。そのため幼児や児童の普及に全力を尽くしています。2つに、親子二代、三代、いつでも、どこでも、だれでも笑顔でできるティーボールの普及です。健常者と障がい者、親子 二代、三代が一緒になって行うという「野球・ソフトボールの運動会」を創り上げたいと考えています。3つは、指導者の養成です。研修、自己研鑽を目的とした「日本ティーボールセミナー」を文部科学省(スポーツ庁)、厚生労働省から後援をいただいて毎年開催しています。
このような地道な努力の成果として、現在、小学校では、この日本式ティーボールが、3・4・5・6年生に対して、体育の必修授業の1つとなっているのです。まさに画期的なことでありま す。そして、この傾向は、韓国、台湾、中国でも同様です。今、もの凄い勢いでこの日本式ティーボールはアジアで普及しています。
今まさに、日本、中国、韓国を中心としたアジア地域で、子どもたち同士がスムーズで楽しい 国際交流を行うことが焦眉の急となっています。そのために、今、その指導者養成に貢献できる 立派な「ティーボール・ティーチャー指導教本」が必要とされています。
本書は、日本ティーボール協会創設後、四半世紀にわたる日本式ティーボールの研究・教育・ 普及活動をもとに、多くの有能な指導者の汗と笑顔の中から獲得した知識と経験から創り上げられたものです。
本書が世に出ることにより、日本式ティーボールが、日本国内のみならず、アジアへ、世界へ、広く正しく普及されていくことを心から願っています。
2017年1月14日
NPO法人日本ティーボール協会理事長
アジアティーボール連盟会長 吉村 正
目 次
第1章 ティーボール概論-吉村正のティーボール愛& ティーボールアイ(眼)
1-1 今なぜティーボールなのか
野球が危ない!-文部省「学習指導要領」からベースボール型が消えた-
野球ができない先生や児童たち
野球経験者の先生が授業で「野球」や「ソフトボール」を教えない
ティーボールを小学校の正課体育に
1-2 ティーボールを女性や中高年にも
以前は親子三代の野球 今は親子三代サッカー学習
女性や中高生にティーボールを
18人(野球)対480人(ティーボール)
レッツプレー・親子三代ティーボール
1-3 アメリカのティーボール規則とその競技の紹介
アメリカの主なティーボール規則
競技上のティーボール規則
1-4 野球のない国ニュージ―ランドのティーボール
ニュージーランドのティーボールとは
ニュージーランドのティーボール競技法
1-5 ニュージーランド・オーストラリアのティーボール教育論
選手の姿勢
先生の姿勢
指導者(コーチ)の姿勢
子どもたちが望む先生(指導者)像
1-6 オーストラリアのティーボール
ティーボール・レッスン・プラン(補給・送球編)
1-7 ティーボールと“ バリアフリー”
ティーボールのバリアフリー
だれでも参加できるティーボール(生涯スポーツとしてのティーボール)
イチロー選手が高校球児に打撃指導!?(プロ・アマの人的交流の実現)
国と国の交流もスムーズに(国際交流の推進)
障がい者とともに
第2回健康福祉スマイルティーボール大会
*コラム*試合をする上での2 大注意点
第2章 ティーボールルール解説Q&A
2-1 ティーボール用具に関するQ & A
ボールに関する質問事項
バッティングティーに関する質問事項
2-2 ティーボール施設・プレーヤーに関するQ & A
グラウンド・体育館に関する質問事項
プレーヤーに関する質問事項
2-3 ティーボールの試合に関するQ & A
攻撃と守備(交代制)に関する質問事項
正式試合に関する質問事項
コールドゲームと没収試合に関する質問事項
試合の進行・停止、特典となる場合の質問事項
2-4 ティーボールの打撃に関するQ & A
打者と次打者に関する質問事項
打撃順に関する質問事項
ストライク・ボール、無効打撃、反則打撃に関する質問事項
2-5 小学校の先生からの質問に答える
第3章 ティーボール教育論-指導者の言葉かけを考える
3-1 ほめ言葉サンドイッチ
「ベースボール型スポーツ」が必修種目に
「言葉かけ」を研究しよう
ほめ言葉サンドイッチ
3-2 危険防止の言葉かけ
あぶなーい!
「ベースボール型」は危険なスポーツ
注意を促す言葉かけ
「ボールから目を離すな!」
3-3 競技場づくりの言葉かけ
競技場づくりの基本
ラインはまっすぐに引く
練習でもボールデッドラインを引こう
3-4 ウォーミングアップの言葉かけ
ウォーミングアップの基本
自分のからだは自分で守ろう
可能なかぎりベスト・コンディション
3-5 キャッチボールの言葉かけ
キャッチボールはベースボール型の基本中の基本
キャッチボール・スキルを高めよう
しっかり構えよう!的をしっかりつくろう!
3-6 キャッチボール・コミュニケーションとは
「お願いします」「ありがとうございました」
ピンからキリまであるキャッチボール
ボールがそれたら「ごめん」と言おう
3-7 構えの姿勢の言葉かけ
構えの姿勢
”構えの姿勢”の言葉かけ
「パワーポジション」をつくろう
3-8 素振りの言葉かけ
素振りとは
単調な練習ほどむずかしい
「素振り」の言葉かけ
3-9 ティーボール・バッティングから野球・ソフトボールのバッティングへ
ティーボール・バッティングの言葉かけ
トスバッティングとは
トスバッティングを2人でするための言葉かけ
3-10 ティーボール・ティーチャーの言葉かけ
ティーボール・ティーチャーとは何か?
ティーボール・ティーチャーの任務
ティーボール・ティーチャー・パフォーマンス
日本発・アジアティーボール連盟創設ー日々練習を重ねて爽やかなリーダーシップを発揮しようー
第4章 ティーボールルール・審判法の要点
4-1 ティーボールルールの要点と留意点
はじめに
1.施設と用具
2.競技者と引率責任者
3.本塁手規定
4.打撃規定
5.走塁規定
6.試合と特典
7.その他のルール
8.審判員・記録員
4-2 ティーボール競技運営上の要点と留意点
4-3 ティーボール審判法の要点と留意点
はじめに
審判員の心構えー動きの基本ー
審判員の宣告用語と基本動作
第5章 ティーボール指導法実習-ベースボール型スポーツの基本技術
5-1 ベースボール型スポーツ-キャッチボールの基本
- キャッチボールとは -その楽しみ方-
- 2人1組、4人1組、円陣等でのキャッチボール
- ボールの握り方
- ボールの投げ方
- ボールの捕り方
- 片手捕りで守備範囲を広げる(グラブ利用の時)
5-2 ベースボール型スポーツ-内野守備の基本
- 打球に対する構え方
- 打球に対する移動
- ゴロやライナーの握り方
- 一塁手、二塁手、三塁手第一遊撃手、第二遊撃手の基本
5-3 ベースボール型スポーツ-外野守備の基本
- 打球に対する構え方からスタートへ
- 打球に対する移動と連携
- フライやゴロの捕り方
- 4人の外野手の基本
5-4 ベースボール型スポーツ-打撃の基本
- ボールを見る
- 野手の間に打つ
- 力強く打とう
5-5 ベースボール型スポーツ-走塁の基本
- 走者の構えからのスタート
- 打者走者は一直線で一塁へ
- 走者の走り方と駆け抜け方
第6章 ベースボール型スポーツのためのストレッチング& シャドー練習
6-1 ベースボール型スポーツのためのストレッチング
はじめに -ストレッチングを行う前に-
ウォーミングアップとしてのストレッチング
スタティックストレッチング(練習前・試合前)
肩・肩甲骨&股関節のチューブエクササイズ
クールだうんとしてのストレッチング(練習後・試合後)
6-2 ベースボール型スポーツ入門期のシャドー練習
- 子どもたちの発育特性を理解しておこう
- ベースボール型スポーツの特色
- シャドー・キャッチボールの試み
第7章 体育授業におけるティーボールの学習指導
7-1 学習指導要領における「ベースボール型」の目標と内容
1 )学習指導要領に示されたゲーム・ボール運動・球技の目標
2 )学習指導要領に示された「ベースボール型」の技能に関する内容
7-2 小学校・中学校の体育授業におけるティーボールの学習指導
1 )中学年の「ベースボール型ゲーム」におけるティーボールの学習指導
①授業づくりのポイント
②教材
③指導計画
2 )高学年の「ベースボール型」におけるティーボールの学習指導
①授業づくりのポイント
②教材
③指導計画
3 )中学校の「ベースボール型」におけるティーボールの学習指導
①授業づくりのポイント
②教材
③指導計画
4 )「ベースボール型」(ティーボール)授業における学習評価
引用・参考文献
第8章 ティーボールの魅力と迫力-日本ティーボールセミナー講演録
8-1 副会長講演「ティーボールの魅力」(荒川 博)
小さな子どもにティーボールを
手を抜くと当たらないティーボール
教えること、学ぶことはむずかしい
長嶋と王の凄さーバッティングはバランスー
ティーボールでバッティングの基本を教える
王貞治選手の想い出
長嶋茂雄選手の想い出
超一流選手の原点
8-2 副会長講演「子どもの才能は無限だ」(荒川 博)
ジャイアンツ川上哲治監督のおかげで開眼
王貞治選手との運命的再開
子どもに教える喜びと楽しさ
子どもの無限の可能性
習うよりなれろープロが子どもに教えなければー
怒らないで伸び伸びとやらせる
子どもたちの才能を育てる基本はティーボール
8-3 基調講演「ティーボール フォー オール」(植村 尚史)
ティーボール大会での新鮮な驚き
幼少年時代の私たちの野球ー苦い想い出ー
ソーシャル・エクスクルージョン(社会的排除)とは
福祉国家経済的問題の根拠
社会的排除がなぜ起きるのか
ソーシャル・エクスクルージョンとどう向き合うのか
ティーボール フォー ソーシャル・インクルージョンー皆様に期待することー
8-4 基調講演「学校教育の中でのティーボール正式スタート」(吉永 武史)
新しい学習指導要領の完全実施
体育の課題の1つは「健やかなからだの育成」
小学校4年生までは基礎学習を位置づける
ベースボール型が必修に
前回の「学習指導要領」におけるベースボール型の取扱い
ベースボール型の指導内容
ベースボール型の技術指導における課題
学習意欲を喚起するティーボール教材と思考判断の学習
ティーボール授業の充実に向けた課題
体育授業研究拠点校でのティーボール授業の取り組み
運動有能感を育てる
ティーボールでの運動に対する愛好的態度を育てる
8-5 基調講演「わが国のスポーツ指導者のあり方」(松浪 健四郎)
変化する社会で健康的に生きるとは
「スポーツ振興くじ」により更なるスポーツ振興を
不祥事から学ぶべきこと
大学進学と同時にレスリングを始めた動機
フセイン・アクバッシュ氏からの深い学びー誰にでもあるハンディキャップー
本物のコーチ(指導者)はどこにいるのか
8-6 基調講演「被災地復興へのティーボールの大きな貢献」(亀岡 偉民)
はじめに
福島の子どもたちがティーボールを楽しむ
インドアティーボールは素晴らしい
幼児もティーボールに夢中
指導者養成の必要性 ー「偉大なるお節介役」が大事ー
ライセンス制度の充実と国際社会への貢献
政治家がやらなければならない大事なこと
子どもたちの将来のために汗を流す
被災地に更なる応援を
[資料編]
1.NPO 法人日本ティーボール協会 オフィシャル・ティーボールルール
2.Official Playing Rules by NPO JAPAN TEEBALL ASSOCIATION
3.NPO 法人日本ティーボール協会公認指導者規程
4.NPO 法人日本ティーボール協会 公認指導者認定講習会及び認定試験等についての内規
5.NPO 法人日本ティーボール協会「公認指導者認定講習会」開催についての申し合わせ事項
6.ティーボール大会組織運営資料
アジアティーボール連盟(ATF)
Asian Teeball Federation
1 .The Founding Philosophy of Asian Teeball Federation
(Preamble of ATF Constitution)
CONSTITUTION OF THE ASIAN TEEBALL FEDERATION
(The Draft of Full Revision)
アジアティーボール連盟(ATF)創設の理念& 規約(全部改正)
2 .The Main Points of the Teeball Rules and the Judgment Method
By Incorporated Non-Profit Organization Japan Teeball Association
By Asian Teeball Federation
NPO 法人日本ティーボール協会 設立の趣旨
*コラム*幼児・小学校1・2 年生用どか点ティーボール①
*コラム*幼児・小学校1・2 年生用どか点ティーボール②
執筆者・編集協力者一覧
編集後記
編集後記
丸山 克俊
1993(平成5)年11月22日、前内閣総理大臣・海部俊樹先生に会長に就任いただき、日本ティーボール協会が創設されました。この協会は、箪頭副会長である早稲田大学教授・吉村正先生(現、NPO法人日本ティーボール協会理事長)が長年の研究成果をもとに、アメリカ式のヘルメット・マスク・レガースを必要とする硬いボールのティーボールに対して、「いつでも、どこでも、だれでも」できる軟らかいボール・バットを開発し、前述の装備を不要とする」日本式ティーボールを考案したところから始まりました。様々な社会貢献を意図した壮大なロマンに溢れたスタートでありました。
ご縁あって、小生は創設期の専務理事を約10年間務めました。草創期の役員諸氏の熱気はたいへん魅力的なものであり、また迫力がありました。協会定款、オフィシャル・ルールブック、諸規程・内規等々、会議をしては訂正を加えることの連続でありました。当時の「東芝ルポ」で打ち込んだデータは、フロッピーデスク20数枚。捨てることができずにまだとってあります。
諸事情があって協会を離れた後は、昨年度まで公益財団法人日本ソフトボール協会の公認指導者養成や「学校体育ソフトボール基本ルール」策定に関わりました。勤務校・東京理科大学では、準指禅員・公認コーチ・公認上級コーチの養成講習会を20数回開催し、その運営事務局を担当しました。半端ではない文書処理と講習会運営を経験いたしました。また、全国各地で、講習会講師として招聘していただき、貴重な学びの機会を与えていただいております。
一方、 創設35年を迎える日本幼少児健康教育学会(会員:280名)では、アメリカ・韓国との国際交流事業を10数回取り仕切りました。 事務局長を17年間務め、毎年、予算編成をしてきました。 前述の講習会も同様ですが、収支決算書は可能な限りきめ細かく整え、監査を受けて報告しました。講師依頼 ・ 招聘についても、ホスピタリティの大切さを深く学びました。そして、何より1つの事業の遂行には、そこに関わる人々の熱意と誠意に支えられた「人の和、人の絆」が不可欠であることを学びました。 また、組織運営の基本は、人事と財源(お金)、そして、文書処 理の3つが大切であることを深く理解させられました。
昨年 4月、ご縁があって、吉村正理事長(アジアティーボール連盟会長)から、アジアティーボール連盟再構築についてのお話があり、そのお手伝いをさせていただくことになりました。そこには、日韓( 韓日)の学会交流で翻訳者&通訳として格別なご尽力をいただいてきた、韓国ティーボール協会副会長・徐相玉(ソ・サンオク)先生を応援し、日本式ティーボールをまずアジア地域に広げようという素直な想いがありました。昨年8月、中国・長春に約1週間滞在し、中国ティーボールの素晴らしい発展を目の当たりにしました。陳兆麗先生(日本協会理事)の格別なご尽力によります。台湾でもティーボールはプレイクしています。
中国・韓国での全国大会を目の前で観ながら、「吉村正先生のティーボール愛」が世界に展開される「もの凄さ」には、 素直に感動しました。 そして、特にアジア地域への正しい普及活動が不可欠であることを自覚いたしました。日本発「ティーボール・ティーチャー哲学」を正しく伝えること。正しい技術指導クリニックをアジア各地で開催すること。そのためには、何より”熱誠 ” あふれる「公認指導者」の養成が急務であります。
そして、その課題解決には、「ティーボール・ティーチャー指導教本」の刊行が不可欠です。吉村正理事長の決断と役員諸氏のご理解により約2ヶ月余で編集・刊行することになりました。早稲田大学ソフトボール部のティーボール委員の皆様には、原稿打ち込みから校正作業等まで、絶大なるご協力、ご支援をいただきました。そして、小生の大切な友人である体育教育出版会専務理事(事務局長)・佐藤弘之氏には、いつものことながら絶大なるご支援、ご芳情をいただきました。ここに、記して厚く御礼を申し上げます。皆様、ほんとうにありがとうございました。