1月27日「理事長からのメッセージ」(パート2)
日本式ティーボールのバットとボールの短い歴史 「ソフトボールのバットを飛ばすバットに、ボールを飛ぶボールに協力、その反省から誕生しました。」
今から40年ほど前、私はY製作所で私のモデルのソフトボールバットを3本作りました。この時、制作担当者にお願いされたのは、「ボールを遠くに飛ばせるバット、ヒットを沢山打てるバットを作りたい」というもの。早く言えば「魔法のバット」を作ってみたいとのことです。当時のソフトボールは1対0の試合が多く投手戦で見ていてシロウト目には面白くないゲーム、その代表的な試合が女子ソフトボールというのです。勿論、私はそんなこと思ったこともなかったのですが。でも、このシロウト目で面白くないソフトボールを打撃戦にして少なくとも平均4対5くらいで終わる試合にするにはどのようにしたらいいかを考えました。結論は簡単でした。バットは「飛ばすバット」、ボールは「飛ぶボール」を作って、点を入れやすくすることでした。
このソフトボールを将来オリンピックに入れるためには、当時出来るだけ打ち合いになる試合にすることが求められたのです。投手戦より打ち合い、所謂打撃戦、見ていて楽しいのです。0対0、1対1の試合は面白くない、加えて、投手優位では、プレーしている人が、投手と捕手と打者だけの試合と勘違いされる可能性が高いのです。これではオリンピックに入れるのは難しいと多くのソフトボール関係者は考えました。
その後、世界のソフトボール界は、0対0、1対0、延長戦の試合が多いという理由で、「タイブレイク」のルールを導入しました。それでも十分面白いとは言えず、次に、DH(指名打者制)(ソフトボールの指名打者制は投手だけでなくどの野手でもつくことができる)も採用しました。これも十分でなく、女子の投捕間(バッテリー間)を40フィートから43フィートにしました。メートルでいうと約1m長くしたのです。投手の投球スピードを遅くして打者優位に。このようにして、女子のソフトボールを打撃戦にするようにしたのです。
また一方で、それまで以上に、飛ぶボールの開発、飛ばすバットの開発、この競争がアメリカ、日本で巻き起こっていたのです。
その結果、女子ソフトボールは、アメリカで開催されたアトランタ五輪から正式種目として、世界で認められるようになりました。(この間、私は、ベースボールマガジン社発行の「ソフトボールマガジン」で「アトランタオリンピックに向けて、吉村正の目」を3年に亘って書いていました。楽しい仕事をさせていただいていました。)
今日では、この飛ぶボールと飛ばすバットはこれが当たり前のようにして、中学、高校、大学、社会人、地域、職場で使用されています。
この波の中心にいた私は、ボールがより硬く、バットが木から金属製に代わるということは、間違いなくそのソフトボールは小学生から離れていくことを直感的に悟りました。
その反省から、「いつでも、どこでも、誰でも、手軽にできるベースボール型球技の研究と実践を加速化」させたのです。最初がスローピッチ・ソフトボール(グリーンソフトボール・柔らかいボールの考案)、次が今日の日本式ティーボールの考案、創作でした。
そのようなわけで、1993年11月に日本ティーボール協会をスタートさせたとき、この協会のバットは、芯が木製、それをウレタンで覆うというもの。ボールも芯は、カポックでゴムを覆うというバット、ボール両方とも柔らかいものでした。即ち、オリンピックに入れるためにボールを固く、バットを金属にした反動です。飛ばないボール、飛ばせないバットを大切にする。これが小学生、はたまた、野球人口の減少に歯止めをかけるため絶対必要と考えたのです。
その後、バットは、芯が木製だと折れやすいということで、金属にしましたが、それを覆うウレタンを柔らかくすることで、より安全で、ボールを遠くに飛ばせないようにしたのです。これが、今に至っています。
ソフトボールは、古くは、芯はカポック・綿でした。しかし、その後コルクが芯になり、今はウレタンを固くして、いくら打っても柔らかくならないようにしています。耐久性に富むようになりました。これはメリットとデメリットがあります。
私は、この日本協会がスタートした時に、なぜ、最初にカポック・綿芯にこだわったかと言いますと、カポック・綿は打てば打つほどボールは柔らかくなります。例えば、狭い公園でソフトボールを楽しもうと思うと、柔らかいボールが重宝されます。それは力いっぱいバットを振っても公園からボールは外に出ません。近所に迷惑をかけないのです。飛ぶボールは、狭いグラウンドでは楽しめません。「狭い場所で、大勢の人が、安全で、投げる、捕る、打つことを楽しむ」となるとオリンピックと反対です。柔らかいボールと飛ばせないバットが必要です。この信念のもと、今の日本式ティーボールのバットとボールを作りました。まだまだ、改良の余地はあります。例えば、最近日本協会で考案した幼児用のボールなどその最たるものです。
皆さんといい考えを出し合って、くどいようですが、「いつでも、どこでも、誰でも、手軽に、楽しくできるベースボール型球技」を創造するためにバットとボールは改良を続けることが大切だと思っています。
今日は、日本式ティーボールのバットとボールの改良また改良の短い歴史のお話でした。