10月11日「セット・トス・ミニピッチ・ソフトボール」の提案(その前編)
前回(1992年1月号)において「小学生にソフトボールをどう教えるか」について、3回に分けて詳述した。その後読者の多くから、「小学生のためのソフトボールの試合について、具体的な用具とルールについて説明せよ」というご意見を頂いた。
そこで今回は、筆者の知識と経験を基に、「セット・トス・ミニピッチ・ソフトボール」としてソフトボールを系統的に考え、小学生に適すると考えられるソフトボールを提案した。
- 小学生のためのソフトボール
小学生に、「ソフトボールは楽しい」と言わせるためには、小学生に、投げる、捕る、打つ、走る機会を与えることが大切である。
小学生が、国際ルールやジュニアルールを採用すると、いわゆるファーストピッチやスローピッチのようなソフトボールらしい試合が行なえない。それは、投手がストライクを投げられない。打者がストライクゾーンに投げられたボールを打てない。また、内・外野手が正確に捕球・送球が行なえない、といったことが考えられるからである。
そこで、筆者は、小学生が国際ルールやジュニアルールを採用するファーストピッチやスローピッチのソフトボールの前段階の「ソフトボール」として、次のような、「セット・トス・ミニピッチ」のソフトボールを提案する。
- 「セット・トス・ミニピッチ」ソフトボールとは?
「セット・ソフトボール」とは、ボールを本塁プレート上に置いた状態から、バットで打ったり、足で蹴ったりするソフトボールのことである。
本塁プレート上に、「ボールをセット」した状態からボールを打つと、見送りが無くなり、空振りも極端に減少する。したがって、打者は打つ(蹴る)喜びを味わうことができ、加えて、打球は内野手や外野手方向へ頻繁に飛ぶようになる。内・外野手の捕球や送球の機会が大幅に増え、ファインプレーやエラーが多く、楽しいソフトボールが展開できるわけである。
「トス・ソフトボール」とは、投手が打者の近くから、柔らかいボール(ピッチャーライナーが危険であるため)を、打者に打ちやすいボールをトス(投げる)するソフトボールのことである。
投手は、本塁プレートから5㍍から7㍍ほど離れた位置から、打者に対して打ちやすいボールのみ投球するので、その投手は守備側で最もストライクを正確に投げられる児童に適している。担任の先生が投手を務めたり、攻撃側から投手を出すという考え方もある。
「トス・ソフトボール」は、バットで打つだけでなく、打者が自分でボールを投げ上げ(トスする)、それを手で打つというハンド・ソフトボールも行なえる。
「トス・ソフトボール」では、投手が打ちやすいボールを投げたとはいえ、打者は、投げられた(トスされた)ボールを打つという喜びを味わえる。投手は投球のほとんどをストライクゾーンに投げる(トスする)わけであるから、打者が投球を見送る機会は少なく、打球は、内・外野手方向へ頻繁に飛ぶ。
「セット・ソフトボール」のときと同様に、内・外野手の捕球や送球の機会が多く、様々なプレーが起こるので、楽しいソフトボールが展開できる。
「ミニピッチ・ソフトボール」とは、投手が、10㍍前後の位置から、打者に対して、自分の身長以上、その倍以内の空間へアーチを描いて投げる。「四球」のルールを採用し、投手はストライクやボールを投げ分ける。この「ミニピッチ・ソフトボール」では、打者が投球を打ちやすくするために、14インチの古くなった大きくて柔らかいボールか、3号球の柔らかいボールを使用する。
「ミニピッチ・ソフトボール」では、投手がストライクゾーンを外れる「ボール」を投げることもあるため、「セット・ソフトボール」や「トス・ソフトボール」のように、打球が内・外野手方向へ頻繁に打たれるというゲームにはならないが、国際ルールやジュニアルールで行なうスローピッチ・ソフトボールに近い魅力的な楽しいソフトボールが展開できる。
- 守備者は11人
小学生のためのソフトボールでは、守備者は11名が望ましいと考える。
ファーストピッチ・ソフトボールや野球は9名、スローピッチ・ソフトボールでは、10名がそれぞれの守備位置につく。内野手が、一塁手、二塁手、三塁手、遊撃手に分かれ、それぞれの守備位置についたとしても、その守備力は非常に弱い。具体的に言うと、三塁手前や遊撃手前のゴロが打たれたとしても、三塁手や遊撃手がゴロを捕って一塁へ投げようとしている間に、打者走者は一塁を駆け抜けてしまう。
10人目の野手であるショートフィルダーを二塁ベースの後方に位置させると、外野守備が少し手薄になる。また、スローピッチにおけるショートフィルダーの役割は、「フェア地域内ならどこに守備してもかまわない」とある。これだと、小学生にとっては、どの位置に守備してよいのか判断できにくい。小学生に対しては、どの位置で守備し、どの辺までが自分の守備範囲かを明確にしなければならない。そこで、筆者は、9人守備、10人守備の前段階として、11人守備を提案する。
11人の守備者は、投手、捕手、一塁手、二塁手、三塁手、第一遊撃手、第二遊撃手、第一外野手、第二外野手、第三外野手、第四外野手とする。
1 投手は後述する各ルールの投球規定に従って、守備位置、投球動作、投球の方法を決定する。
2 捕手は、投手がトスやピッチ(投球する)するボールを必ず、ワンバウンドで捕球する。したがって、捕手は本塁プレート後方でしゃがむのではなく、中腰で楽な姿勢で構える。
(捕手が、投球されたボールをノーバウンドで直接捕ろうとすると、打者もノーバウンドのボールを打とうとする。打者のバットと捕手のミット(グラブ)が接触しやすくなり、とても危険となる。そのため、捕手は、投手の投球をワンバウンドで捕球することを義務づけるのである)
3 一塁手は、一塁ベース一歩左横で守備し、主に打者走者をアウトにするためのプレーを行なう。(塁ベース近くでプレーすると、すべての守備が容易に行なえる)
4 二塁手は、二塁ベース一歩左横で守備し、主に二塁ベース上で行なわれるプレーに参加。
5 三塁手は、三塁ベース一歩右横で守備し、主に三塁ベース上で行なわれるプレーに参加。
6 第一遊撃手は、一塁ベースと二塁ベースの中間地点で守備する。ボールの種類、投球規定や打撃規定、あるいは打者の強弱等によって守備位置を図1のように移動させることは自由である。
7 第二遊撃手は、二塁ベースと三塁ベースの中間地点で守備する、第二遊撃手は、第一遊撃手と同様、守備位置を自由に移動させることができる。
8 第一外野手は、一塁手と第一遊撃手間の後方で守備する。
9 第二外野手は、第一遊撃手と二塁手間の後方で守備する。
10 第三外野手は、二塁手と第二遊撃手間の後方で守備する。
11 第四外野手は、第二遊撃手と三塁手間の後方で守備する。
- セット・ソフトボール①(名称:ティ・ソフトボール)
1 使用球 3号球の柔らかいボール。
2 使用バット 太く短いバット(協会2号バットも可)
3 競技場 塁間は、16㍍である。
4 競技者 ①10名〜15名
②10名(守備者)
(10名の選手は、捕手、一塁手、二塁手、三塁手、第一遊撃手、第二遊撃手、第一外野手、第二外野手、第三外野手、第四外野手である)
5 投球規定 捕手兼投手は、一つのプレーが終了後、本塁プレート上のバッティング・ティにボールを乗せる。
6 打撃規定 ①打者は、バッティングティに乗ったボールを打つ。
②バントは禁止である(打者アウト)。
7 走塁規定 ①走者は毎回無死二塁一塁から開始する。
②スライディングは禁止である(走者アウト)。そのため、走者の一塁、二塁、三塁での駆け抜けは認められる。(走者は塁ベースを駆け抜けた後、野手にタッチされてもアウトにならない)
③走者は毎回最終打者が一塁その前位の打者が二塁に入る。
8 試合 ①試合は、5回(7回も可)から成る。
②打者は一番から順番に打つ。
③打者はチームの全員が打つ。
[他のルールは、国際スローピッチ・ルールに準拠する]
- セット・ソフトボール②(名称:フット・ソフトボール)
1 使用球 14インチのゴムまりボール。
2 競技場 ①体育館か運動場
②塁間は、14〜16㍍である(体育館の広さによる)。
③投捕間は、10㍍
3 競技者(選手) ①10〜15名
②守備者は11名(10名も可)。
(11名の選手は、投手、捕手、一塁手、二塁手、三塁手、第一遊撃手、第二遊撃手、第一外野手、第二外野手、第三外野手、第四外野手である)
4 投球規定 捕手兼投手は、一つのプレーが終了後、本塁プレート上に、ボールを置く。(競技者10名のとき)
[参考]投手が下からきわめてゆるいゴロを投げる場合、投捕間は、6㍍とし、ストライクが入りやすく、打者が投球をキックしやすいようにする。
5 打撃規定 打者は、本塁プレートの後方2、3㍍の位置から2、3歩助走し、ボールをキックする。キック後は、打者走者となり、一塁へ走る。
6 走塁規定 ①盗塁は禁止である。
②スライディングも禁止である。
7 野手規定 ①投手は投球しない場合、内・外野手と同様のプレーをする選手である。
②捕手は、一つのプレーが終了後、ボールを本塁プレート上に置く。
8 試合 (ティ・ソフトボールと同様)
【参照】吉村正(1992)<小学生の指導者必読>「小学生にどう教えるか!!-セット・トス・ミニピッチ・ソフトボール-」、ソフトボールマガジン第16巻第6号、38-42頁
以上、ここでは、「小学生に対してソフトボールは楽しい」と思わせる指導を行うことが大切だと書いた。そこでは、出来るだけ小学生に数多く「投げる、捕る、打つ、走る、喜び」を味あわせることだと。
特に、「打つ」に関しては、「セット・ソフトボール」を二種類紹介した。それらは、「①ティ・ソフトボール」と「②フット・ソフトボール」。前者はその後改良が加えられ、1年半後、日本ティーボール協会を創設した時に、この「①ティ・ソフトボール」は「日本式ティーボール」として、スタートさせることになったのでした。