5月1日 全軟連DH制採用へ。「ナイストライ」です。ルールはその時代にあったものにして行く必要があると思います。

 4月の初め、昨年の「文部科学大臣杯争奪全国小学生(3・4年生)ティーボール選手権大会」に、取材でお越しくださった日本経済新聞社の篠山正幸編集委員から電話取材が2回ありました。その内容は「全日本軟式野球連盟(全軟連)が2024年から、投手に代わって打席に着く指名打者(DH)制度を小学生や中学生の大会で導入する。これについてどのように思われますか?」という質問でした。

 私は一連の話を聞いて、「それは『ナイストライ』ですね」とお答えしました。話をよく聞くと、小学生と中学生の間で、野球離れがとても進んでいる。何とかしなければならない。そこで考えたのが、多くの子どもたちに試合に出る機会を与えたい、その一つの考えがこの指名打者を採用することだと。

事実、4月5日の日本経済新聞の電子版に掲載された篠山編集委員の記事を読むと、「1997年時点で連盟加入チームは、小学生だけで15,018チームあったが、2023年は9,333。選手の登録数は17年の205,839人から146,847人に減少した」と。この数字を見ると分かるようの全軟連には危機感があります。

 更にその電子版に、全軟連の小山専務理事は、「野球は9人でやるものという考え方は根強いけれども、形にこだわっていられる時代ではない。野球選手は打つ、守る、走るという三拍子がそろうのが理想。可能性に満ちた子どものときから特化する必要もないはずだが『まず野球は面白いものだ、と思ってもらわなくては』と述べられている」と紹介されています。正に納得です。素晴らしい発言です。

 DH制は、そもそもソフトボール界から始まり、それが野球界へと浸透していきました。ソフトボールと野球を熟知した人にとっては、その流れが理解できます。今、ソフトボール界では、DHはDP(ディシグネイティッド・プレイヤー)と名前が変わり、指名打者は、投手のみに着くという考えから更に考えられて、どの選手に対しても、打つだけの選手は認める、というものです。例えば、ライトやセカンドで打撃力が弱いとその選手に指名打者(DP)を置くことが認められているのです。

 また、多くの選手を出場させるという意味では、ソフトボールには、「テンポラリーランナー」というルールがあります。それは「投手・捕手が塁上の走者となっていて二死となった時、あるいは二死後、投手と捕手が出塁し走者となった時、投手と捕手に代わりにテンポラリーランナーを使用することができる」というものです。

 1985、1986年、私がハワイ大学の野球部のコーチを1年間務めた時、NCAA(全米大学スポーツ協会)の野球では、「二死後捕手が走者になった時、その走者に代走を送ることができる」というルールがありました。それは今でいう促進ルールです。捕手は早くにベンチに戻り、マスク、ボディープロテクター、レガース等を身に着け、次の回への準備をしなさいというものでした。ソフトボール界では、このルールを参考にして、上記のテンポラリーランナーのルールを成文したと思われます。

 更にソフトボール界では、「リエントリー」というルールもあります。これは一言でいえば、選手の再出場。「試合開始の打順表にその名前が記載されている場合は、その時期に関係なく一度限り、再び選手として試合に参加できる」というもの。このルールを採用したお陰で、ソフトボールでは、更に数多くの選手が試合に出場できるようになりました。

 アメリカの野球のルールは、ソフトボールのルールから学んで採用しているものが、沢山あります。それは、野球人口よりソフトボール人口がはるかに多いからです。

用具もそうです。金属製のバットを最初に使用したのは、アメリカのソフトボール界からでした。ボールもそうです。今でこそ野球のボールはボールの周囲が9インチと統一されていますが、以前は、それよりも大きなボールも使用され、その名称は、レディス・ベースボール、トワイライト・ベースボール、レクリエーション・ベースボール、インドア・ベースボール等と呼ばれていた時期もあったのです。その使用するボールの周囲の長さは、11インチ、12インチ、14インチ、16インチであったのです。

 このように考えると、全軟連の今回のDH採用は、「ナイストライ」以外何物でもないのです。

この電子版の記事の後も、篠山編集委員は、4月25日の日本経済新聞朝刊のスポーツ面で、「逆風順風」において、タイトルは「少年野球『DH制』への脱皮」を書かれました。「(前略)30年以上前から、老若男女が親しみやすいよう、野球を作り替えてきたのが吉村正・早大名誉教授(健康福祉教育学)だ。あらかじめ台に置いた球を打つ『ティーボール』を広めている。運動会みたいに家族みんなで楽しもう、ということで、おじいちゃんが打ち、お孫さんが走者として一塁へ走る、という微笑ましいシーンがあるそうだ(後略)」とお書きくださいました。

 昨年夏の全国大会での「競技としての日本式ティーボール」の取材から、この度の「いつでも、どこでも、誰でも、手軽に、笑顔で、楽しくできる日本式ティーボールの理解、嬉しいです。

是非また、今年も全国大会のお越しください。そして出来るなら「健康福祉の大会」も。

(引用資料)

・日本経済新聞4月5日電子版「学童野球にも指名打者導入 多様な個性をどう生かす」(編集委員・篠山正幸)

・日本経済新聞4月25日朝刊「少年野球『DH制』への脱皮」(編集委員・篠山正幸)