9月28日<小学生にソフトボールをどう教えるか>(吉村正執筆)。「ソフトボールマガジン」(ベースボールマガジン社発行)1992年1月号より

 23日お約束したように、本日から1992年1月号に「ソフトボールマガジン」(ベースボールマガジン社発行)に投稿した「小学生に(ソフトボール)をどう教えるか」を3回に分け、32年振りにここに紹介します。

 この原稿は、「日本ティーボール協会」を創設した1993年11月の約2年前の原稿です。この記事から小学校の先生方のみならず、現在皆さん方と一緒になって普及活動している日本協会役員の先生方に対して、この機会に「日本式ティーボール」の理念や方法論等をご理解くださると幸いです。

 <小学生の指導者必読>

「小学生にどう教えるか!!」

早稲田大学教授 吉村 正

平成4年4月から、小学校5・6年生に対して、「ソフトボール」が、「ボール運動」のところで、選択必修となる、そのため、今、小学校、あるいはソフトボール関係者の間で、小学生にソフトボールをどのように指導するか、盛んに論議されている。

ここでは、小学生に限らず、ソフトボールの初心者には、ソフトボールをどのように指導しなければならないかを提案したい。

 A 小学生のソフトボールどう教えるか

 ●はじめに

小学校高学年におけるソフトボールの指導は、児童に「ソフトボールが楽しい」と言わせる授業にしなければならない。

児童がソフトボールを楽しむためには、児童が頻繁にボールを捕り、投げ、打ち、走れる授業を展開することが大切である。そのためには、ソフトボールのどのボールを使用し、どんなルールに則って、ゲームを行うかを決定しなければならない。それによって練習の仕方も変わってくる。この選択を誤まると、一部の児童のみが楽しくプレーするソフトボールになり、多くのソフトボールぎらいの児童を生み出してしまう。

そこでここでは、児童のソフトボールぎらいを出さないために、ソフトボールのゲームやルールの特性を明らかにし、児童はどのようにソフトボールをプレーすればよいかを記述した。

Ⅰ.ソフトボールのゲームの特性

  1.  「投げる」「捕える」「打つ」「走る」といった運動の基本動作を複雑に組み合わせてプレーする球技である。
  2.  「いつでも」「どこでも」「誰でも」手軽に楽しくプレーすることができる。
  3.  老若男女がその技術水準に合わせて、競技的にも、レクリエーション的にもプレーすることができる。

Ⅱ.ソフトボールのボールやルールの特性

  1.  ソフトボールは、バスケットボールやサッカーのように、一つのボールを用いてプレーするものではない。
  2.  ボールは日本ソフトボール協会が公認する1号球、2号球、3号球の3種類と、ボールの周囲が14インチあるボールの計4種類ある。
  3.  アメリカにおいては、1号球と2号球はなく、ボールの周囲が12インチ(3号球)、14インチ、16インチの計3種類がある。
  4.  また、ソフトボールのルールには、大別すると4種類ある。それらは、ファーストピッチ、スローピッチ、ミディアムピッチ、マウンテンボールのルールである(日本では、ファーストピッチとスローピッチのみが現在行われている)。
  5.  したがって、ソフトボールという球技は、国際的な観点から見ると、10数種類のゲームが存在するのである。

Ⅲ.小学校高学年ではどのソフトボールか

小学校高学年では、創意工夫された学校ルールで行うことが望ましい。そしてもし公式ルールに則ったファーストピッチかスローピッチを行おうとした場合、筆者はスローピッチを強く勧めたい。それは、ファーストピッチとスローピッチでは以下のような特徴があるからである。

①ファーストピッチの特徴

ファーストピッチのゲームでは、投手が速球や変化球が自由に投げられるという魅力がある。しかし、そのため、投手が部活や地域のチーム(学童等の大会)で熱心にプレーしていると、試合が投手中心のものとなり、打者は打ちにくく、走者となる回数も限られる。当然のこととして、打球は内・外野に多く飛ばない。打者による待球作戦もあるので試合時間は長くなる。

②スローピッチの特徴

スローピッチでは、投手は公式ルールに則って、山なりのボールを投げると、打者は投球が打ちやすいので待球することなく、早いカウントからどんどん打ってくる。その結果、打球は内・外野へ頻繁に飛ぶようになる。守備者全員が、「捕える」「投げる」「走る」機会を多くもてる。打者も「打つ」と「走る」喜びを多く味わえる。

スローピッチの試合では、テンポが早く、打者、走者、野手それぞれの運動量は多く、平均化され、楽しいゲームが成立する。打者はどんどんヒットを打つが、試合時間は短い。

Ⅳ.ボールの決定

小学校高学年では、3号球か2号球を使用するべきであろう。それは、1号球のように小さいボールを使用すると、広いグラウンドが必要となり、塁間も広くとらなければならない。また、打球のスピードも速くなり、危険度も増す。小さいボールでは、打者が空振りする確率も高い。反対に、3号球だとグランドは狭くて、塁間やバッテリー間も短くてよい。打球は速くないため、より安全で楽しいソフトボールがプレーできる。大きいボールだとバットに当たる確率も高い。

Ⅴ.ソフトボール指導内容

[1] 2人1組でノーバウンドのキャッチボール
   [行い方] お互いがノーバウンドでボールを投げ合う。

[2] 2人1組でゴロのキャッチボール
   [行い方] 1人がゴロを転がし、1人がそれを捕り、ノーバウンドで返球する。

[[1]と[2]の練習のねらい]

・上手な者とそうでない者が組んだときは、上手な者は捕りやすいボールを投げ、捕らせる喜びを味わう。

・技術が同水準同士で組んだときは、正面、高低、左右のボールの投げ合い、守備力を向上させる。

[3] 4人1組で6−4−3のダブルプレー

           [行い方] ①が②へゴロを転がし、②がそれを捕り、③にトス、③がそれを捕 り④に送球、④は①へ返球する。

[4] 4人1組で4−6−3のダブルプレー

           [行い方] ①が③へゴロを転がし、③が②へトスか送球、②がそれを捕って走者の走路を空けるようにして④へ送球、④は①へ返球する。

[[3]と[4]の練習のねらい]

・投げる、捕るの総合練習である。

・4人は送球する相手の技術水準を正しく理解して、相手が捕れるボール(位置と速さを考えて)を投げ合う。

[5] 4人1組で遠投とカットプレー

           [行い方] ①と②が交代で④へ遠投する、④はそれを捕りその連続動作で③へ送球、③は半身でそれを捕り、次の遠投者である①か②へ送球する。

[[5]の練習のねらい]

・内・外野手間の連係プレーのコツを学習する。

・フライの捕球、送球時のフットワーク、それに送球動作をスムーズにする練習を行う。

[6] 2人1組で投手と捕手の練習

[[6]の練習のねらい]

・全員がスローピッチでの投法(スタンダード投法)と投球ルールを学習する。

[7] 4人1組で投手、捕手、打者、球審の練習

           [行い方] 投手はワンバウンドで捕手へ投球、捕手は必ずワンバウンドで捕球する。打者は投球を見、球審は右打者の場合、捕手の一歩後方からストライクか ボールかを判定する。

[[7]の練習のねらい]

・捕手がホームプレート後方中腰で構える位置と、ノーバウンドで捕球しない理由(打者が投球を一歩下がって打ちにくることがあるので危険)を学習する。

・打者は打者の目で、山なりのボールにおけるスローピッチのストライクゾーン(肩の一番高いところから膝の底部まで)を確認する。

・球審は捕手の後方一歩横から投球を見ることが、正確な判定を行いやすいことを学習する。

[8]6人1組でトス打撃と守備練習

           [行い方] 投手がストライクを投げ、打者はできるだけ投手の方向へ打ち返 す。打球が投手を抜けたときは内野手が、空振りやファウルを打ったときは、捕 手が捕る。

[[8]の練習のねらい]

・打者は投手方向へ打ち返す練習を行い、打つ喜びを味わう。そのためには、投手は、守備者5人の中でストライクを投げられる人がプレーする。

・空振りの多い打者は、投球を打つために変形チョークグリップ(右手と左手を空ける)でもかまわない。

[9]6人1組でハーフ打撃と守備練習

           [行い方] 投手がストライクを投げ、打者がそれを内野手方向へねらい打つ。 内野手はそれを捕り投手へ送球する。投手はストライクを投げられる人がプレー する。

[[9]の練習のねらい]

・打者は比較的強く打つ喜びと、ねらい通りに打つ喜びを味わう。

・内野手は実際の打球を捕り、素早く送球する喜びを味わう。

[10]スローピッチのゲームを学校ルールで行う

[[10]の練習のねらい]

学校ルールを制定するときは、次の点に配慮しなければならない。それらは、性差、技術差、用具と施設、指導者の専門性などである。

性差に関しては、男子のみ、女子のみ、男女混合によって、投球距離や塁間を変えることが大切である。また、技術が未熟の者が集まっていた場合、バットを用いずラケットを使用したり、内野手5名、外野手4名にする配慮が必要となろう。さらに、指導者が経験者であれば、ゲーム中攻守に関係なく投手を務めるとか、一塁手でゲームを引っ張るといったことも可能となるのである。

【参照】吉村正(1992)<小学生の指導者必読>「小学生にどう教えるか!!」、ソフトボールマガジン第16巻第1号、28-33頁

 最後の文章は、次回(中)に続く。お楽しみに! です。